副看護師長からお電話…

「○○病棟の○○さん、呼吸器完全に離脱は出来ないけど声を出したいみたいなの~気管切開だけどなにか人工呼吸器に依存している患者さんでも声を出す方法ってないの?」


というコンサルトがありました。私達臨床工学技士の範疇ではないかもしれませんが…以前勤めていた病院で「慢性呼吸不全における気管切開型人工呼吸患者における発声方法の検討」というものを個人的にやったことがあるので今日はちょっとご紹介。


いやはや検討の前フリが長くなりましたm(__)m


皆さん御存知のとおり気管切開を行い気管チューブを挿入すると気管切開チューブを境に上気道と下気道が分けられてしまいます。





そして通常、声を出すためには呼気ガスにより上気道側にある声門を震わせて発声します。(黄色の丸い部分)






気道切開チューブにはカフがありますので気道切開チューブから吸い込んだガスは肺でのガス交換を終え上気道を通ることなく気道切開チューブから呼気として出ていきます。





ようするに呼気ガスが上気道を通らない気管切開患者は声が出ないわけですね。



では、気管切開患者は気管切開チューブを入れたら声を完全に奪われてしまうのか?という疑問です。



答えは…いくつかの方法があります。



①1つ目は人工呼吸器を使用していない気管切開患者の場合。この場合はスピーチカニューレと言われるカニューレを使用すれば発声が可能です。



(コウケンさんのホームページより引用)

このカニューレは吸気はカニューレから取り込みますが、カニューレに一方向弁が着いているので呼気がカニューレの側孔と呼ばれる孔から上気道側へ抜けて声帯を震わせることが出来るので発声ができます。比較的安定した患者さんが使用します。


②二つ目は普段、人工呼吸器を使用しているが短時間なら離脱可能な患者さんの場合。これは複管式のカニューレを使用します。ぼやけた画像ですが、コーケンネオブレス スピーチタイプと呼ばれるものです。





人工呼吸器使用中は内筒を入れて通常の気管切開チューブとして使用しますが、安定しており発声を行う場合は、内筒を外して一方弁を装着すると①で紹介したようなスピーチバルブタイプのカニューレに変わります。2WAYタイプといいますか・・・手技は煩雑になりますが、一定時間人工呼吸器を離脱できる方は第一選択の発声法です。


③三つ目は、今回のメイン。人工呼吸器離脱ができなくて発声をしたい場合です。一時期話題になりましたが、Blom(ブロム)と言われる気管切開チューブで人工呼吸器装着中でも発声ができるとされていますが、このカニューレでの発声は一回換気量が大きく呼吸回数が少ない患者でなければ発声ができません。




(インターメドジャパンホームページより引用)


このことから、一般的なカニューレでも発声が出来る方法を考える必要があるのです
が。。。。。

実はあるんです!


気管切開患者が発声できない原因は、呼気ガスが気管切開チューブ内でしか交通できず上気道側へ流れないためでした。だったら・・・上気道側へ何かしらのガスを流せばいいのです。ということで・・・商品名でいったらこちら。



(スミスメディカル社ホームページより引用)


実際問題、気管切開チューブにカフ上部吸引ラインが付属されているカニューレならばガスを流すことができます。あくまでスミスメディカル社のカニューレ以外は発声を目的としたサクションラインではないため推奨は私の立場上できませんのでご了承くださいね。ではこれらのガスの流れを図で紹介します。





ようするに、呼吸とは完全に独立した持続的なガスをカフ上部へ流すことにより声帯を振動させ発声を行うことができるのです。いうなれば、息継ぎなしで声が出せるので超ロングボイスも可能なわけです。この方法による発声の順序(我流です)は・・・



①ベッドをギャッジしてなるべく上体を起こす。
②カフ上部に分泌物等が溜まっていないか吸引を行う。
③カフ上部吸引ラインに酸素チューブを接続する。
④患者に「のどがしだいにモゴモゴしますよ~」とアナウンスをしながら酸素流量を1L刻みづつ付加する。
⑤付加最中に母音である「あ」「い」「う」「え」「お」を伸ばしながら発声させる。


酸素接続はこのような形になります。





最初はかすれたような声がでますが、そこから+1~3L程流量を上げればしっかりとした発声ができます。また、このサクションラインからのガスフローは非常に乾燥したガスなので長時間発声させるのは好ましくありません。だいたい目安としての流量は5L~8Lあたりでしょうか。このあたりでだいたい落ち着きます。


私が以前検討したときはこのような結果となりました。





25歳ぐらいのときに栄養なんかに興味をもって我流かつ単独で調べていたので当時のN数が少ないですが、この結果によると気管切開期間が短いか長いかは関係なく発声が可能だった患者に共通していえる事は経口摂取が可能である事でした。


冒頭に書いた副看護師長コンサルの患者さんも経口摂取できていたのであとあときいたら話せたようです。

この方法で発声が出来ない患者さんは喉頭機能が低下しているか気管切開孔が大きくサクションチューブからのガスが気管切開孔へ抜けて上気道側へ流れないかのどちらかです。


以前、NST研究会でとある摂食嚥下で有名な先生の話を聞いていたら「しゃべれる患者さんは食べれるんです!」と言っていました。


私の場合「食べれる患者さんは喋れるんです!」と逆のパターンですが、嚥下機能が残っている患者さんは高い確立で発声が可能です。是非患者さんに声を取り戻すケアを行いQOLの向上に寄与できたらなと思います。