IABPの原理と基本観察項目(Data scope,CS 300)
IABPは、アイ・エー・ビー・ピーと呼び,正式名はIntra Aortic Balloon Pumping(大動脈バルーンパンピング)です。今回はこのIABPの原理と基本観察項目について紹介していきます。
IABPのアクセス部位は前述したように大腿動脈アプローチとなります。そしてバルーン先端が下行大動脈部分(左鎖骨下動脈下)にくるように・・・かつ、バルーン下部が腎動脈や腹腔動脈などにかかっていない事を確認しなければばりません。下に実際に留置している状態の画像を示します。
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IABP (Intra Aortic Balloon Pumping,大動脈バルーンパンピング)
IABPは、大腿動脈から下行大動脈にバルーンのついたカテーテルを挿入した後、自己心に合わせてバルーンの拡張・収縮を行い心臓の「圧」補助を行う補助循環装置のことをいいます。尚、IABPの補助率は心臓に対して良くても20%程度といわれており「本当にヤバイ時」はPCPS(経皮的心肺補助装置)を用いなければなりません。では、IABPのアクセスや基本原理について紹介していきます。IABPのアクセス部位は前述したように大腿動脈アプローチとなります。そしてバルーン先端が下行大動脈部分(左鎖骨下動脈下)にくるように・・・かつ、バルーン下部が腎動脈や腹腔動脈などにかかっていない事を確認しなければばりません。下に実際に留置している状態の画像を示します。
分かりやすいようにバルーンの先端部分にマークをつけると・・・こんな感じ
今回は循環器系のIABPトピックなのは分かっているのですが、やはり呼吸器系が歴として長いためか目につくのはとっても太くて綺麗な気管・・・まるで教科書にでも出てくるかのような画像ですwww
それは置いといて・・・先端の次は末端の画像です。
先端の時と同じようにマーキングをするとこのような感じ。
さらにいうと末端画像撮影時ちょうどバルーンが拡張していたようなのですが、みなさんバルーンが膨らんでいるのが分かりますか?これもまた分かりやすいようにマーキングをしてみました。
レントゲン画像ではこのような位置関係となりますが、何故位置をしっかり確認しなければならないのか・・・それはIABPの臨床効果ほ考えながら紹介していきます。
と、いうことでIABPの効果(強いては目的)を紹介するのですが、大きく2つの効果を期待してIABPを使用します。1つは心臓の収縮期にバルーンを収縮させることにより後負荷の軽減やIABPバルーン下の血流増加を狙ったもの。もう1つは、心臓が拡張する時にバルーンを拡張させることによる冠血流増加の目的です。では、ありきたりな図になってしまいますが、それぞれ詳しくみていきましょう。(前負荷、後負荷についてはコチラ)
・後負荷軽減(Systolic Unloading,シストリックアンローディング)
図のように心臓が収縮する時にバルーンを収縮させるとバルーン収縮の勢いでバルーンから下の方向に血液が流れやすくなります。ようするに後負荷が軽減されるわけです。後負荷が軽減されると心臓は一生懸命に収縮して血液を拍出しなくてすむというわけです。
・冠血流増加(Diastolic Augmentation,ダイアストリックオーグメンテーション)
もうひとつは、心臓拡張期にバルーンを拡張させることにより狙った作用です。これは、バルーンが膨らんでいる状態のため心臓から拍出された血液の流路を阻害し逆流させることにより冠動脈側へ流れ結果的に冠血流量を増加させるというものになります。冠血流増加が拡張期における大きな狙いですが、バルーンが弓部3分枝よりも下行大動脈側にあるため血液逆流は弓部にも作用することから脳血流増加の作用も少なからずあるといえます。また、バルーンの位置について少し戻りますが、大動脈弓部のイラストを見ながら考えていきます。
・・・とりあえず解剖学的に各部位の名称などは
①腕頭動脈(その先の分岐は向かって左側が右鎖骨下動脈、②側が右総頚動脈)
②左総頚動脈
③左鎖骨下動脈
④下行大動脈
となります。では・・・IABPのバルーンがこのような位置にきてしまった場合を考えましょう。
ちょっとアバウトなイラストになっちゃいましたが、バルーンのふくらみが②左総頚動脈
と③左鎖骨下動脈にかかってしまっています。このためこのかぶさった部分の血流がうまく流れない可能性があります。同様にバルーン抹消の腹部系動脈に関しても同様の動脈血流障害懸念があるためにバルーン位置の確認は必須項目となります。では、バルーンの位置はどのように注意をするかというと・・・バルーンの大きさには成人用で40cc,34cc,30ccと当院採用のものは3種類ありますが、適切なバルーン選択をすれば基本的に位置は適切な場所に留置できるとされているようです。
それでは、実際にIABPを動かしどのように観察を行うかにはいっていきたいと思います。IABPのバルーンカテーテルは多くの場合、血管造影室やオペ室で挿入されると思います。
清潔野から降りてきたIABPカテーテルをIABP本体へ接続していきます。
IABP本体の外観はコチラ
(Data scope CS300,MAQET社)
機器の電源を入れたら必ず赤○で囲ったヘリウムボンベを開けておきます。また、IABPのバルーン拡張に使用する駆動源としてヘリウムガスを使用していますが、その理由として「応答性」が優れているためといわれています。この「応答性」と聞くとぱっと想像が難しいと思いますが、IABPは患者の心臓運動に合わせてバルーンの拡張・収縮を行わなくてはいけません。もし患者の心拍数が150回だったりした場合、駆動ガスが「動きやすい」性質でないとうまく作動してくれないはずです。このような理由から原子番号表でも2番目にあり軽い気体であるヘリウムが使用されています。
ガスの話は終わりまして・・・清潔野からの接続を・・・
ヘリウムが出入りするバルーンラインを機器に接続し・・・今回は光センサー付きのカテーテルなので光センサーも接続します。
この光センサーは、バルーンカテーテルの「先端圧」を計測してくれます。IABP装着患者でなく日常の患者血圧管理でもAラインなどで圧測定を行いますが、Aラインによる測定には圧トランスデューサーが必要です。この光センサーは、圧トランスデューサー無しで先端圧測定が可能なためとても便利です。しかし、バルーンのサイズが40ccと34ccの2種類にしか付属していないため30ccを挿入する小柄の患者さんなどでは通常の圧測定のように圧トランスデューサーを作って先端圧測定を行う必要があります。
圧は測定可能になったのでお次は心電図信号を取り込みます。心電図信号の取り込みにはIABP本体へ直接誘導コードからの信号を入力するため下のように心電図電極をはりつけ信号をとります。
これで心電図波形と先端圧波形が本体へ取り込まれました。正常に取り込まれた場合は下の写真のようにメインディスプレイへ各波形と数値が表示されます。
*ベッドサイドモニターから信号を出力しIABPに飛ばすことも可能です
それでは、IABPを動かしていくのですが、バルーンの拡張・収縮を決めるためのソースは心電図と先端圧の2つがありますが、そのうちどれを選択するかをきめなければいけません。
この決定を行うためにはまず「モード」を決める必要があります。今回の機種では大きく2つのモードがあり、それぞれ「フルオート」と「オート」となっています。この二つに共通していえるのはバルーンの収縮と拡張のタイミングは機械が自動的に行うが、タイミングを見つけるための「トリガー」を固定するかどうかがモードにおける違いとなります。
*細かなタイミングは自動動作のあと操作者で変更可能
フルオートでは、信号が複数の場合、とりやすい信号をトリガーにします。例えば、心電図と先端圧の信号をIABP側に入力していた場合、フルオートで動作中に心電図が患者体動などで乱れた場合、機械が自動的に先端圧へトリガーを変更し誤動作を抑制します。
オートの場合は、トリガーは操作者が固定しタイミングは自動で決めるというもの。このため心電図波形でトリガーをしていた患者さんの心電図電極が外れて信号が途絶えたらIABPの動作は停止してしまいます。
これがモードの違いですが、今回はフルオートで動かしてみます。
操作パネルの左上にあるモードボタンでモードを確認後、右上にあるスタートを押すとバルーンカテーテル内をヘリウムで置換し動作が開始されます。一般的に初期設定は1:1。すなわち全ての心拍に補助を行うことになります。動作開始完了時のメインディスプレイがこちら・・・
IABPを動かす前の画面と比べてもらったら全く別物だということが分かります。
さあ、ここまできたら実践編です!通常の血圧波形は下の図のように頂点が収縮期血圧でベースラインが拡張期血圧となっています。
しかし、IABP動作時の圧波形はどうでしょう?通常の圧波形とは少し違った波形が見られているのではないかと思います。こんなふうに・・・
なんだかウサギの耳みたいな波形になってしまいましたが、IABPの圧波形でこれだけはおさえてほしいことがあります。それは・・・「ディクロティックノッチ」を基準に考える事です。「ディクロティックノッチ」は通常の圧波形でいう赤○の部分。
このディクロティックノッチの部分でバルーンを拡張しなければいけません。なぜならばこのディクロティックノッチというのは大動脈弁が閉鎖した際にでる点といわれているのでこの点より早くバルーンを拡張した下の図のような波形だと大動脈弁が閉まる前にバルーンを拡張して逆流させるのでAR(大動脈弁の逆流)状態になってしまうわけです。
逆に拡張タイミングが遅いと冠血流増加効果が減少してしまい波形としては下のようになってしまいます。
お次は収縮のタイミングですが、収縮が早くても遅くても拡張期圧が高くなってしまいます。適切にタイミングを設定した場合はシストリックアンローディングとしての効果が後負荷軽減なので圧の下げ幅が大きいはずです。このため自己圧とIABP動作圧を見比べて拡張期血圧がどうなっているかを観察する必要があるといえます。観察の際はIABP設定を1:2に変更し下の図のように自己拡張期圧の黄色の丸より赤の圧が下がっていればOKです。
以上が基本的な観察になります。
終わりに、IABP使用中のアラームとして一番怖いのが「血液検知」。意味合いとしては、バルーンの破損により生体内の血液がバルーン内部に侵入してきたことを意味しますが、このアラームが鳴ったら機器を停止させ(自動的に止まるはずですが・・・)頭を下にする体位をとり本当にバルーン内に血液が侵入したかをカテーテルにシリンジを接続して吸引し確認する必要があります。
しかし、機種によっては血液検知アラームが鋭敏で僅かなカテーテル内の水分にも反応するようですので、十分な観察が必要だと思います。
久々に長文になりましたが、いかがだったでしょうか?循環器領域は難しいですが、私も日々勉強しますので皆さんがんばりましょう!
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