今回のトピックは、人工呼吸器管理中に加温加湿器と人工鼻を一緒に使ってしまったらどうなるのか?


ってトピックです。

教科書的には…「加温加湿器と人工鼻の併用は人工鼻の目詰まりを起こして加湿ができなくなる可能性があるので禁止」というのが一般的のようです。

このインシデントは意外と起こるようで…僕も見たことはあります。よくあるシチュエーションは…

「人工呼吸器を加温加湿器で使っていて検査で移動式人工呼吸器へ変更…変更した時の人工鼻を外し忘れてそのまま加温加湿器の呼吸回路に接続してしまった」というもの。

ん~

ただの観察不足なわけですが…気を付けましょう。


さてさて、問題かつ気になるのがどのくらい患者に影響があるのかということ。

今回はちょっと実験してみます。


人工呼吸器はサーボを使います。立ち上げ時のデフォルト設定のVCVで500ml。


動作開始直後のグラフィックがこちら。


呼吸回路はもちろん加温加湿器回路です。


温度が適切な値になったのを確認します。


そして、Yピース部に人工鼻を装着。


30分動かしていましたが、特に目立った変化はみられませんでした。気道内圧の変化もありません。

そもそも、人工鼻と加湿器の併用を懸念する理由としては…水分により人工鼻の閉塞を招く恐れがあるからなわけですが…それならば手っ取り早く人工鼻をウェットな状態にしてみます。

今回使用している人工鼻はDARのハイドロバックというものです。


ポールのものもあったのでついでに実験。




左の緑色がDARで右の青色がポールの人工鼻となります。この2つに水を入れて日勤帯(約8時間)放置しておきます。



放置後の人工鼻に溜めていた水は下に漏れることはなくたまったままだったのでそのまま呼吸器に装着して換気をしてみました。

最初に人工鼻を装着した時の気道内圧は23でしたが、人工鼻が水分により目詰まりを起こしていたのならば換気ができないはずです。

水に8時間さらした人工鼻で換気を行った時の気道内圧は…33


あえていうならYピース部分でピチャピチャ言ってました。

Yピース部分の水を抜いて換気を再開したら気道内圧は28でした。

これはどういうことかといいますと…


人工鼻はフイルター性能も有しているものがほとんどで今回使用したDARのハイドロバックもフイルター性能つきのものでした。

フイルターの性能というものはドライ状態(乾燥状態)が前提にあります。そのため呼吸器フィルターや人工鼻フィルターのほとんどが水をはじく疎水性のフィルターとなっています。これが8時間程水にさらしていた人工鼻が換気不能にならずに気道内圧上昇のみで換気が継続できた理由となります。

ということで…人工鼻と加温加湿器の併用は目詰まりというほどの障害は起こさないのですが、人工鼻に水がたまり人工呼吸器側の計測値である気道内圧が上昇する可能性があります。もちろんPCVでは換気量が下がるということになります。

また、人工鼻は死腔にもなりますし加温加湿器で加温したガスの温度低下も引き起こす可能性があります。

検証では目詰まりというほどの不利益は確認できませんでしたが、どちらにしても併用してもいいことはないということになるので加温加湿器は加温加湿器のみの使用、人工鼻は人工鼻のみの使用と徹底するべきだと思います。

みなさん、呼吸器回路デバイスは適切に使用しましょう!

フィルター性能についてのお話はこちらから