人工呼吸器装着患者のアセスメントといえば搭載されたモニターに描かれるグラフィック波形です。臨床において非常に有益なツールなので今回はグラフィック波形の基本を紹介します。


3つの基本グラフィック波形

人工呼吸器に搭載されるモニターに描かれるグラフィック波形は下に示す通り多くが3つの波形です。この波形は上から圧(プレッシャー)波形・流量(フロー)波形・換気量(ボリューム)波形となっています。



また、今回の記事では一貫してPC(従圧式)の換気様式で換気を行った波形で紹介とさせていただきます。それではそれぞれの波形を見ていきましょう。


圧力波形

圧力波形はPEEPをベースラインとして吸気時間中に上に凸の形を成します。人工呼吸器の吸気圧は、吸気時間中ずっと圧力が上昇しているわけなのでその圧力上昇が上に凸の波形を成していると考えて頂ければと思います。このことから圧力上昇が解除されてベースラインに戻っている時間は呼気相ということになります。


流量波形


流量波形は大きな三角が上に凸、下に凸と2つ合わさった波形です。この2つが合わさって1呼吸分の波形になり左側の上に凸の三角が吸気側の波形、右側の下に凸の三角が呼気の波形となります。

この流量波形の特徴を下に示します。



流量波形は吸気開始と同時に一気にガスを送り設定した吸気圧に到達させます。このため吸気初期で吸気流量はピークに達します。設定した吸気圧に到達したら肺に送られるガスは肺容量増加に伴い減衰(少なくなる)していきます。

また、呼気相に移る際は吸気とは逆で呼気開始初期にピークに達し肺内のガスが吐出により少なくなってくるので吐くガスが少なくなるため呼気流量も減衰します。

尚、波形の成り立ちについては上記のようなメカニズムですが流量波形の基本としてもう1つ下に示すように吸気波形の始まりは基線である0から始まり0に戻って終わる…そのあと呼気波形が始まり0に戻り波形が描きおわるといった1呼吸の波形で0の点を3回通るのが原則です。





換気量波形


換気量波形は1呼吸で上に凸の三角形が1つ描かれます。そしてその三角形の頂点から垂線を引き左側が吸気で右側が呼気となっています。


代表的な異常流量波形


臨床でのグラフィック波形アセスメントで専ら観察する項目は本記事でも多くの記載を行っている流量波形です。ここでは代表的な異常波形を紹介します。紹介するにあたりSIMV+PSモードで換気様式はPCとします。

吸いたくてもすえない



この波形では1呼吸目にSIMVによる強制換気を行っていますが吸気が基線に戻る前に終了しています。この時の吸気流量波形の横幅を見ると非常に短いです。

すなわち強制換気の吸気時間が短いため患者は「吸いたいのに吸えない」状況になってしまっているわけです。そしてこの吸いたりなかった呼吸を補うために連続した呼吸(2段呼吸)を行い2呼吸目のような波形ができています。

また、3呼吸目はPS換気が入っているのできれいな流量波形が描かれてるわけですが、ここに注目すると強制換気が患者の呼吸と合っていないという考察もできます。

このような波形を見た時の対応策としては自発呼吸がしっかりとあるのであればモードをSIMVからPSへ変更するもよし。モードは変更せずSIMVの強制換気を行う際に4呼吸目のように赤で塗った波形ができるよう吸気時間を延長するという対応もアリです。


吐きたくても吐けない



次はSIMVの強制換気による吸気時間設定が患者要求よりも長いパターンです。吸気流量波形が0に到達していても圧波形は上に凸のまま。吸気終末では若干圧波形が上昇しています。

この圧波形の上昇は、人工呼吸器の吸気と患者の呼気がぶつかる現象「ファイティング」をさします。

ようするに患者は呼気相に移りたいのに人工呼吸器がガスを無理やり送ってくるので「吐きたいのに吐けない」という状況になります。


このような場合の改善策は3呼吸目のように強制換気の吸気時間を赤で塗っているような波形を目標に短くする対応を行います。


いかがだったでしょうか?今回は波形の基礎と代表的な異常波形を紹介しました。

臨床において異常波形で紹介した「吸いたいのに吸えない」と「吐きたいのに吐けない」はよく目にします。きっと皆さんの施設でも事例があると思うのでちょっと意識してグラフィック波形を観察してみてください。

YouTubeでの解説動画はこちらから
人工呼吸器グラフィック波形の基礎
グラフィックを用いた設定変更