私達、臨床工学技士の中でもベッドサイドで自分の考えのもと人工呼吸器を設定し管理する技士は少ないと思います。と、いうよりも透析や人工心肺は私達のテリトリーといいますか…他職種よりも実務を独占的に行うのである程度の経験を積むと裁量で行えると思うんです。しかし、人工呼吸器管理は麻酔科のドクターをはじめドクターが扱うことから経験値を積む環境にないことが状況としてあるのではと思います。そんな職場環境のなか、少しでも臨床に参加する技士をはじめドクター・ナースに情報提供できたらなと思います。尚、今回の記事は実践的なものなのである程度の人工呼吸器について基礎知識を持った方向けに書いていますのでご了承下さい。


呼吸器の選び方

まずはどのような呼吸器を使うかを決めなければいけません。ざっくりですが、急性呼吸不全なのか慢性呼吸不全なのかが大きな材料です。



①急性呼吸不全の場合

院内において気管内挿管を今から始めて呼吸管理を行う場合やオペ後においては出来る限りハイスペック呼吸器を選択してください。また、既往として慢性呼吸不全があって急性増悪ならばハイスペックです。ハイスペックといってもFIO2が調節できA/C・SIMV・PSができたら文句無しです!

②慢性呼吸不全の場合

すでに呼吸器が導入されていた患者が他施設から転院してくる場合や比較的状態の安定した在宅人工呼吸器の方に関しては移動式の人工呼吸器や在宅人工呼吸器でも十分管理可能です。


どのモードを選択するか

さてさて、中身に入っていきます。今回は成人男性で今から気管内挿管を行い呼吸管理を行うという設定とします。

①自発呼吸がある場合

気管内挿管を行う手技にもよりますが、大抵の場合が鎮静剤若しくは静脈麻酔剤などをワンショットして気管内挿管を行います。しかし、気管内挿管は痛み刺激も伴うので挿管時にバッキング(咳き込み)やばらついた呼吸を行う場合があります。

このような場合は強制換気を限りなく避けた方がいいのでみんな使いたがるであろうSIMVではなくPSモードを個人的にオススメします。強制換気が例えSIMVでシンクロしたとしても吸気時間は規定されるのでファイティングにつながったりする危険があります。よって多呼吸であれば100%PSのほうが優れています。

②自発呼吸がない場合

自発呼吸がない場合はA/CでもSIMVでもどちらでもいいです。ただし自発呼吸が出現した時にSIMVを選択していると、PS換気時にパッと見普通の呼吸にみえてしまうためA/Cの方が不同調が分かりやすいと思います。というよりもSIMVは考える設定項目が一番多いのであまりお勧めしません。

一応参考にA/C・SIMV・PSのサーボiにおける設定画面を参考に提示します。



A/Cの設定項目は7個

SIMVの設定項目は10個

PSの設定項目は6個(バックアップを除く)


ようするにSIMV設定が一番設定項目が多い=難しいということになります。


換気様式はどうするか

換気様式というのは強制換気を行うにあたって決定する項目なのでA/CもしくはSIMVの時に考えます。


この換気様式についてはVCVかPCVで選択しますが、PCVの方をオススメします。なぜならばPCVよりもVCVのほうが気道内圧が上がりやすいからです。肺保護の観点から肺胞内圧はできるだけ低くするべきてすが、VCVの圧波形をよみとき肺コンプライアンスが悪いのか気道抵抗が悪いのかを理解している人が少ないからというのもあります。


逆に言えばVCVを選択してコンプライアンス成分とレジスタンス成分の観察が出来るのであればVCVでも管理できるということになります。


モードと換気様式のあとは・・・

①FiO2
②PEEP
③吸気圧
④I:E比
⑤呼吸回数
を決めましょう。

①急性呼吸不全の患者であればベターにFiO2は1.0で開始。酸素化に関してはSpo2を見ながら可能な限りFiO2を下げていく。

②普段使いであれば5cmH2O以上で開始。酸素化が悪い人(1型呼吸不全)であれば8cmH2Oあたりから15cmH2Oまであげていく。FiO2が1.0でPEEPが15などの高い値を要するならばAPRVや IRVなども考慮。

③吸気圧は目標一回換気量を獲得できるよう調節する。一般成人男性ならば一回換気量500~600mlあれば十分ですが…1型呼吸不全で酸素化が悪い場合は肺コンプライアンスが非常に悪くなってると考えられるのでボリュームはなかなか稼げないかもしれません。

そういった場合は吸気圧を上げて換気量を稼ぐか最高気道内圧が30cmH2Oを越えるようであれば自発呼吸を無くした強制換気にて呼吸回数をあげめでCO2の管理をするのもアリです。

ちなみに自発呼吸が存在して多呼吸の状態でこの500ぐらいの一回換気量だと過換気になるのでその場合は鎮静、鎮痛の見直しが必要です。

また、さらっと一回換気量のことを書いていましたが、目標換気量の設定としては体重あたり10mlを目標で…感覚的に決定していることが多いです。この体重に関しては実体重でなく理想体重で換算しましょう。

理想体重の式や考え方については別記事へどうぞ。

理想体重を用いた一回換気量設定

④I:Eは強制換気要素のあるA/CもしくはSIMVを選択した場合に設定する強制換気中の吸気時間と呼気時間の比率です。なれないうちはとりあえず吸気時間1秒、呼気時間2秒になるように呼吸回数とI:Eを調節してください。微調整はフロー波形を観察してもらいたいのですが、分からなかったらYouTubeの解説動画を見てもらえればと思います。


⑤呼吸回数は、強制換気を選択した場合に設定しますが、自発呼吸がない場合は18回あたりで設定し血液ガスでCO2を見てから換気をあげるべきならば呼吸回数を増加させるもよしです。

※図に示しますが使用する人工呼吸器によっては強制換気の呼吸回数設定を変更すると強制換気の1呼吸分の時間も変わるため吸気時間と呼気時間が二次的に変わってしまうことがあります。



このため呼吸回数やI:Eの設定変更を行う場合は必ず吸気時間がどうなったかの確認を行ってください。


最後に今回は説明を出していないライズタイム(立ちあがり時間)やサイクルオフ、フロートリガー設定はデフォルトの数値のままで当面使っていってもらって他の項目設定に慣れてきたら考えはじめるぐらいで大丈夫と思います。

いかがだったでしょうか?まだまだ実感が湧かないと思いますが一つ一つ理解してよりよい呼吸管理を行っていただけたらと思います。