今回は実習中の学生さんから質問を頂いたので人工呼吸器回路の始業点検項目にある回路補正について詳しく紹介します。



最初に各人工呼吸器には様々な呼称で人工呼吸器チェック項目が存在します、各機種における始業点検名や回路チェック名を下に列挙します。



人工呼吸器始業点検種類




各機種様々な呼称で始業点検や回路点検がありますが、始業点検というのは以前紹介したservoの始業点検方法BennettSST方法にも記載したように各種センサーの較正などを行うため重要な行程であり回路点検はリークチェックのほかに回路内ボリューム(機械的死腔)の補正の計算に用いられます。この回路補正は臨床的にどのような意味をなすのかみていきます。



人工呼吸器回路も「呼吸」している

人工呼吸器の仕組みとして患者に供給するガスは人工呼吸器回路を介して送られます。当たり前といえば当たり前なのですが、この人工呼吸器回路というものは筒状の物質であり伸びたり縮んだりするわけです。ガスを送れば通り道である回路は膨らむので患者に一回換気量を送気するといってもこの回路伸縮を考慮しなければいけないのではないでしょうか?



そう、この回路伸縮による換気量誤差などを計算するために「回路補正」というものがあるわけです。



では、具体的な例を挙げていきたいと思います。ここでは回路が膨らむ前を「非換気時」、回路が膨らんでいる時を「換気時」と表現します。



人工呼吸器回路は筒状のものなのでこの筒に入る気体の容積は円柱の容積計算方法と同じく下のように表すことができます。








それでは人工呼吸器回路の非換気時の回路容積を計算してみましょう。円柱の容積計算式と同じようにまとめると下のようになります。






回路径は通常成人用回路で2.2cm(22mm)、吸気回路の長さは数種類ありますが、ここでは150cm(1500mm)とさせてもらいました。回路の半径r=直径の1/2なので1/2×22mm=11mm=1.1cm、長さは150cmなので・・・







換気時に回路直径が2mm大きくなっていると過程した時の計算は非換気時と同じように数字をあてはめ下のような計算になります。







これらの計算から非換気時と換気時での回路内容量の差は・・・







約100ml程になってしまいます。さらにこの回路の伸縮具合は換気設定でいう一回換気量や吸気圧が高ければ高いほど増えてしまうのでこの伸縮具合を打ち消す制御が必要不可欠となります。



そしてこのような制御を今回のトピックである「回路補正」で行っているというわけです。ここでは回路内容量の話を重点的に行っていますが、回路には抵抗も加わるのでこの回路補正で回路抵抗などの補正も行っています。




このことから、人工呼吸器の回路点検は患者接続前の必須項目であり回路補正は必ず行うべきものだと分かって頂けたのではないかと思います。




安全安心な人工呼吸ができるよう確実に始業点検などは行いましょう