先日、当院では滅多に稼働しないECMOが私の当直の日にERで1台動き、日勤が終わった19時頃にICUでもう1台導入という補助循環dayに遭遇したので今回はECMOについて紹介していきます。

ECMO(ExtraCorporeal Membrane Oxygenation,体外膜型人工肺)

ECMOは、血液を遠心ポンプにて体外の膜型人工肺へ導きそこで直接酸素化と換気を行い体内へ戻す治療のことをさし静脈(Vein)脱血で動脈(Artery)送血を行うものをV-A ECMO、静脈脱血で静脈送血したものをV(Vein)-V(Vein) ECMOと呼びます。また、俗にいうPCPS(Percutaneous Cardio Pulmonary Support,経皮的心肺補助装置)という言葉は諸外国では使われておらず日本で使用される言葉だと以前職場の先輩から言われたのでPCPSという言葉ではなく今回はV-A ECMOとV-V ECMOのそれぞれの言葉を使って紹介をしていきます。これに先立ち若干肺循環をおさらいします。

肺循環

肺循環とは、右心室から左心房までの循環をさしますが、下に心臓の図を示し通常の健常成人における静脈血(組織に酸素を供給した後の二酸化炭素を多く含んだ血液)が流れる部分を「青」、動脈血(肺により酸素化を行った血液)を「赤」で色分けし各名称についても示しました。
心臓自己画像
心臓における静脈血と動脈血

この図から静脈系においては上肢の静脈血が上大静脈へ集まり下肢の静脈は下大静脈へ。・・・そして上大静脈と下大静脈の血液は中心静脈⇒右心房⇒右心室⇒肺動脈⇒肺でガス交換という一連の関係がみえると思います。そしてガス交換を行った後の酸素に富んだ血液は肺静脈⇒左心房⇒左心室⇒大動脈⇒全身へと流れていきます。これらの流れを頭に入れておいた上で各ECMOの理解を深めていきたいと思います。

V-A ECMO

V-A ECMO(いわゆるPCPS)は静脈から脱血をして人工肺でガス交換を行った後、動脈へ送血を行い循環状態が破綻してしまった患者さんの循環補助を行うために使用します。言うなれば自己肺に血液を送ることもできず、呼吸機能も循環機能も危険な状態であると言い換えれます。V-A ECMOの図が下のようになります。

*青の矢印が脱血で赤の矢印が送血を表しています

V-A ECMOの流れ

V-A ECMOの場合、ECMOによる送血の流れは自己心臓が全身へ送り出す流れと逆向きに流れることから自己肺でガス交換を行った血液とECMOの人工肺でガス交換を行った血液が下の図のように混ざるということになります。この自己心臓の拍出による流れとECMOフローが混ざる場所のことをミキシングゾーンといいます。

自己拍動とECMOフローによるミキシングゾーン
そして異なる条件でガス交換を行った血液が混ざった場合、その混ざり具合で血液ガス分析結果などの検査データも異なる値を示す事を考えなければいけません。そこで次の図の4つの点での酸素分圧PO2について考えていきたいと思います。それぞれの名称は・・・


①腕頭動脈(その先の分岐は向かって左側が右鎖骨下動脈、②側が右総頚動脈)
②左総頚動脈
③左鎖骨下動脈
④下行大動脈

ですが、この時にECMOをV-Aで行った場合のPO2はどうなるかというと・・・


FiO2にもよりますが、人工肺で酸素化した血液は当然高いPO2を示します。しかしながら、自己心臓側の血液(①~③)は、人工肺ではなく自己肺の酸素化能に依存傾向が強いため低いPO2を示すはずです。このことから自己肺によるガス交換が反映されやすいのはECMOフローから一番遠い左室側になりこの図でいうと①⇒②⇒③⇒④の順となります。尚、自己肺の酸素化能を反映するためには「流れ」が必要なため心臓が動けば動く程、自己肺と人工肺によるフローミキシングが多くなります。逆を言えば、心臓が動いていない場合はECMOの人工肺側のPO2と左室よりの場所との差が小さくなるはずです。このように、ミキシングゾーンによるPO2と人工肺側でのPO2間においての差を調べ差が大きければ心臓が動いている、差が少なければ心臓は動いていないという評価を行うことができます‼。

そしてここからが大事ですが、前述したように①~③の三分枝で評価するのはいいのですが、具体的にどう評価するかというと、左手と右手の血液ガスで評価を行います。

なぜならば、①の血管の先は右手が抹消になりますし、③の抹消は左手を反映するからです。このようにV-A ECMOの評価は血液ガスやSpO2などの値が計測場所により変化するが重要な管理・観察項目となります。


V-V ECMO

V-V ECMOは静脈から脱血をして人工肺でガス交換を行った後、静脈へ送血を行い呼吸補助を行うために使用します。このV-V ECMOの適応患者は、自己肺が悪くガス交換はできない状態だが、心機能に問題はないといった患者となります。ざっくりいうと肺循環は機械でやって体循環は自前となるわけです。V-V ECMOの図が下のようになります。

V-V ECMOは、自己心臓にて動脈血を拍出するため前述したV-A ECMOのようにミキシングゾーンや測定場所の影響をシビアに見なくてもいいのですが、観察項目やトラブルシューティングに関しては、V-A ECMOと同じなので「どこを補助しているか」は違いますが、基本を抑えておかなくてはいけません。ここからは基本とトラブルシューティングについて解説していきます。

V-V ECMOの詳しい記事はコチラから


ECMOに用いる物品

ECMO治療に必要な物品についてはECMO装置や膜型人工肺、アクセスルートとなるカテーテルなどです。

・ECMO装置(コンソール・ドライブモーター)
これはTERUMOとMAQETが有名どころで当院でも成人用はこの2つを使用しています。
・ECMO回路(人工肺と血液回路・遠心ポンプ)
人工肺も各社様々ですが、当院ではTERUMOのキャピオックスとNIPROのBIOCUBEを使っています。

・送血カニューレ、脱血カニューレ

長く青い方が脱血(成人用18Fr,19.5Fr)
短い赤い方が送血  (成人用13.5Fr,15Fr)

・ECMOセット(鉤製小物等のオペ器具)
・無影灯等

ECMOカテーテル挿入とECMO機材準備

ECMOを導入すると決まったら患者側ではカテーテル挿入を、機械側ではECMO機材の準備を行います。今回はTERUMOのキャピオックスを用いた回路組みです。まずは人工肺と遠心ポンプをホルダーへセットし人工肺に接続されている酸素供給チューブを酸素ボンベ(若しくはガスブレンダー)へ接続します。


次に流量センサー部分にゼリーを塗りつけ流量センサーを装着します。


この時の流量センサーの向きは送血方向と同じであることを確認しなくてはいけません。その後、プライミングラインから補液を行いプライミングを完了したらプライミングラインをクランプし送血回路をカンシでクランプ…1500回転程度で回しておきます。術野側でカニュレーション(カニューレを入れること)が終了したらECMO装置側の清潔回路を術野へ渡し、カニューレと回路を接続。酸素を流し始めて合図をかけたらECMOスタートです。当院で成人を管理する場合はとりあえず酸素濃度100%3L/min,ECMO回転数はECMOフロー3L/minが出るまで上げて導入完了です。


ECMO維持期の観察と看護(トラブルシューティング)

ECMO装着患者は、最重症患者ともいえることから観察も非常に重要です。

ECMO機械側で観察すべき項目はコチラ

①ECMOの設定回転数に対する実際の流量表示値
②酸素ブレンダーの酸素濃度とガス流量
③人工肺のウェットラングと血漿リーク
④異音などはないか

などです。それでは順に見ていきます。

①ECMOの設定回転数に対する実際の流量表示値


ECMOの特徴は遠心ポンプを利用しており回転数を設定した結果どのくらいフローが出るかは患者の状態次第です。通常の成人心拍出量は、4L/min以上あたりだと思いますが、ECMO患者でフロー表示が1L/minなどと表示されていたら絶対的に灌流量は足りません。このためフローをあげるために回転数をあげたり、回転数をあげてもフローが出ない場合は脱血回路の震えなども観察しそもそも脱血ができない場合ボリューム付加を行ったりします。ECMOを導入してもフローがでなかったら組織の酸素供給が出来ない状態となるので致死的状況となります。これらのことからECMOの観察で最重要項目がフローの観察だといえます。

②酸素ブレンダーの酸素濃度とガス流量


ガスブレンダーにおいて患者の酸素化をしたい場合は右側の酸素濃度を設定しますし二酸化炭素を下げたい場合は左側のガス流量を高く調整します。ECMOでは、酸素化と二酸化炭素排出をこのガスブレンダー操作をもって行っていることから設定濃度や流量の確認も重要になってきます。

③人工肺のウェットラングと血漿リーク
ECMOで使用する人工肺に起こる有名な2つの現象に「ウェットラング」と「血漿リーク」というものがあります。ウェットラングとは血液中の水分が気化し外気温等の影響で結露となり人工肺周囲にたまって人工肺性能を低下させる現象をさします。このウェットラングを予防する目的で酸素フラッシュ(ガスフラッシュ)という手技が一般的に用いられており一時的(1分~3分)にガス流量を10L/minへ変更し人工肺側の水分を吹き飛ばすなどの対策を行わなくてはいけません。また、酸素フラッシュをおこなうためにガス流量を増加させましたが、この手技が及ぼす患者の影響として二酸化炭素の排出促進(PCO2の低下)状態となるためガスフラッシュ後は設定流量へ確実に戻すよう注意が必要です。次に血漿リークですが、人工肺素材である中空糸という膜が本来疎水性(水をはじきやすい状態)をもっているものの長期使用することによる性能低下で水分を通しやすくなり、血漿成分がじんわりでてきてしまう現象をいいます。血漿リークの状態は人工肺のガス出口側に確認することができるので写真のような部分を観察する必要があります。また。ウェットラングに対する対応としてガスフラッシュがありましたが、血漿リークについては対処として人工肺交換以外にないことから人工肺の酸素化能を把握するために人工肺近位の採血データなどをもとに判断していかなければいけません。


④異音などはないか
ECMOでは遠心ポンプを使用していますが、そのポンプが正常に動きおかしな音がないかなどを確認します。遠心ポンプが壊れてしまったらこの治療じたいできなくなってしまいますからね。。。そんなこんなで機械側の項目から患者側の項目にうつりたいと思います。


ECMO患者側で観察すべき項目はコチラ

①右手・左手のSpO2値
②カニューレ挿入部の固定や出血有無の確認
③ECMO回路の曲がりなどの回路周辺観察
④下肢血流の確認


①右手・左手のSpO2値
冒頭のV-A ECMOに関する紹介でも書いたようにV-A ECMO(PCPS)では自己心臓側の血液とECMO側の血液が混ざり合うことで酸素化や自己心の評価を行う必要があります。このため各部位でのバイタル計測が必要となります。

②カニューレ挿入部の固定や出血有無の確認
コチラはCV等と同じ扱いです。新たな出血がないかや固定状態を確認し安全を確保します。

③ECMO回路の曲がりなどの回路周辺観察
ECMO回路は屈曲などで急激にフローが低下することがあります。このため補助循環を安全に継続するためにはECMO回路の整理整頓も必須となります。

④下肢血流の確認

V-A ECMOの流れ
V-AでもV-Vでも図を見ると分かるように一般的には大腿動脈や大腿静脈からカニュレーションを行います。太い血管ではあるもののカニューレ挿入による下方(カニューレより足側)閉塞の懸念は出てきてしまいますので下肢の冷感がないかや皮膚色の観察、血流計による血流計測やパルスオキシメーターの活用などで観察を行わなくてはいけません。もし血流が乏しい場合、ECMO回路の送血側に側枝(そくし)といった抹消還流用のルートを作成し抹消還流を行う事もできます。もし、そのような対処を行わなかった場合、下肢虚血に陥ってしまいますので注意が必要です。


いかがだったでしょうか。今回は呼吸や循環の中でも非常にクリティカルな話題に触れさせてもらいました。私達臨床工学技士でも難しいECMO管理ですが、医師や看護師をはじめたくさんのスタッフが協力しなければならない治療だと思います。みなさんチームとなり患者治療に臨んでいきましょう!

IABP(大動脈バルーンポンピング)についてはコチラから
補助人工心臓(IMPELLA)についてはコチラから!
V-V ECMOについてはコチラから!