先日、High PEEPや腹臥位でも酸素化が図れずV-V ECMOを行った症例があったので今回はなかなか世間的にも浸透しない肺補助についてとことん考えていきたいと思います!

V-V ECMOとは?

以前ECMOについてはV-A ECMOの俗称である「PCPS」という言葉も使い基本的なところについて「ECMO(PCPS)の基本原理と観察項目」という記事でふれていきました。

その記事でも紹介したようにV-V ECMOとV-A ACMO(PCPS)との決定的違いは下のように脱血部位と送血部位の組み合わせにあります。

・V-A ECMO(PCPS)静脈脱血⇒動脈送血
・V-V ECMO             静脈脱血⇒静脈送血



ようするにV-A ECMOは心臓が酸素化した血液を送り出せないので動脈系に送血し、V-V ECMOは肺は悪いけど心臓は動いているから静脈から脱血し酸素化した血液を再度静脈に返し全身へ送り出すのは自己心臓の拍動で行うということです。

ここで疑問に思うのが「肺だけ悪くても心臓だけ悪くても全部V-A ECMOでいいじゃん?」っていう疑問です。

みなさんどうでしょうか?私は単純にECMOに関わり始めてこんなトリッキーな疑問を持ったのですが・・・

考えてみるとそもそもカニュレーション(脱血や送血を行うために必要なカテーテルを入れること)手技は明らかに静脈系の方が容易です。

言い換えるのならば抹消点滴ルートを1本とるのとAラインをとう骨動脈から1本とるのはどっちが簡単?てのと一緒ですね。その点でもV-V ECMOという選択肢はあってもいいかもしれません。

他にどんな違いがあるのか・・・って考えたらそもそも禁忌になってしまう状態も考えられることに気付きました。では、それについて掘り下げていきます。

心機能に問題のない重症呼吸不全にV-A ECMOを行うとどうなる?

ここではV-A ECMOの考え方を少しおさらいします。V-A ECMOは、心機能低下のために血液を全身に送り出せないことから遠心ポンプを用いて脳をはじめ臓器へ酸素化した血液を送りだすことをさします。そこで大事なのが毎度登場のこのイラスト。



V-A ECMOを行う場合ECMOの血流は大腿動脈方向から大動脈方向へ送血する言わば「逆行性送血」です。このため、自己心機能が十分に維持されている場合はECMOフローと喧嘩(呼吸器的用語を使うとファイティング)してしまいます。

時には、自己心のほうが強い拍出力をもっている場合もあります。その場合・・・自己心で拍出した血液とはどのような状態の血液かというと・・・


肺でガス交換を行った後の左心室により送り出された血液なはずです。では、その血液がECMOフローよりも強く拍出されたらどうなるか・・・

それは重症呼吸不全により酸素化が極めて困難となった結果である低酸素状態の動脈血が脳をはじめ主要臓器に送り込まれることになってしまいます。

これこそが心機能が維持されている重症呼吸不全においてV-V ECMOが選択される理由となります。

V-V ECMO中の患者SpO2やPO2はどのくらい?

人工心肺経験者やよほどの補助循環経験がないとなかなかリンクしない問題がこのV-V ECMO中の患者管理です。一般的な健常人でのPO2は100mmHgでSpO2は90台後半だと思いますが、V-V ECMO中の患者は導入初期段階で健常人と同じようなSpO2やPO2にはほぼなりえません!当院でもDrが「なんでこんなにSpO2低いのかな~。頑張ってECMO入れたのに・・・・」なんてことをぼやいているのを聞いたことありますが、そもそもV-V ECMOは心臓外科手術での「人工心肺のような体外循環」ではないということを念頭におかなければなりません。

人工心肺での体外循環と補助循環の違いは?

まず人工心肺での体外循環は2本脱血であればSVC(上大静脈)とIVC(下大静脈)で行い1本脱血であれば右心房から脱血を行います。



これらのように2本脱血ないし1本でも上半身と下半身から還った静脈血は合流し右房へ流れ込むため静脈血をほぼほぼ脱血(抜き取る)することができるわけです。では、ECMOの場合を考えてみます。

V-V ECMOであれば上大静脈側から脱血したら送血は大腿静脈側から。脱血を下大静脈側から行ったら送血は上大静脈側からしか行えません。ようするにV-V ECMoでは下の図のように前述した心臓外科手術のように静脈血をしっかり抜き取ることが不可能な状況になります。



このため脱血できなかった下大静脈側の静脈血はそのまま右房⇒右室⇒重症呼吸障害を伴う障害肺⇒左房⇒左室⇒全身へとなります。

と、いうことは下の図のように十分に酸素化した血液と酸素化できなかったままの状態になっている静脈血が混合するということが必然的に起こるといえます。


と、いうことは・・・右心系には下のような血液状態となります。

仮に人工肺での酸素濃度を100%とすると
人工肺で酸素化された血液 Po2 200mmHg以上、SO2 99%
人工肺を通らなかった血液 PO2  40mmHg以下、SO2 75%

単純にこれらを混合するとSO2は75%~99%の間の値をとることが分かります。

このことからECMO中のSpO2が80%台となっていてもおかしなことではないしもっとSpO2を上げるためにはECMOフローを上げるか、自己肺が回復するor呼吸器設定を厳しくする(高圧や高いFiO2)とならなければいけません。

しかし、V-V ECMOの目的はLung Restであり肺を休ませる事にあります。このためある程度の低酸素は許容しなければいけないですし冒頭での私の施設もそうですが、許容範囲という概念がV-Aと比べてV-Vは経験が少ないため認識できないのが全国的に問題になっているのではないかと思います。

今回は改めてV-V ECMOについて考えてみました。私も症例が少ないので大きくは言えませんがしっかり勉強していこうと思います。

皆さん頑張りましょう!