前に後輩がICUのDrに『挿管している人でCPAP/PSモードのPSを0にしちゃ駄目なの?』と聞かれたみたいで・・・今回はそんな質問から見えてくる『挿管チューブのあれこれ』をご紹介。

さて、基本的な事ですが調節換気の人工呼吸器設定で一回換気量を規定するものは従圧式であれば吸気圧、従量式であれば一回換気量となるわけですが、その一回換気量を規定するパラメーターを『0』にするとどうなるか皆さん考えたことはありますか?今回は実際に呼吸器を動作した状況も踏まえて紹介していきます。

今回使用する人工呼吸器はフクダ電子のServo。世間的に従圧式を使用する施設がほとんどなので従圧式換気で見ていきます。

一般的にみる設定画面はこんな感じだと思いますが、ここではA/C(補助/調節換気)モードで換気様式としては従圧式を選択しました。また、1番が吸気圧(換気の力,PEEPからどのくらい陽圧を加えるか)、2番がPEEP、3番が実測値の最高気道内圧を示しています。


当たり前のように観察項目として導き出される実測値の目安としての最高気道内圧値は吸気圧20cmH2O+PEEP 5cmH2O=最高気道内圧25cmH2Oとなるわけです。

実際の波形や実測値の画面を見てみると最高気道内圧28cmH2Oと近似値をとっています。



このことから吸気時に『換気』による圧上昇を伴うことを改めて認識したわけですが、次のような設定にしたらどうでしょうか?


先ほどの理屈でいうと換気を生み出す吸気圧が『0』なので圧上昇はありえないはずです。
予測できるものは

吸気圧0cmH2O+PEEP 5cmH2O=最高気道内圧5cmH2Oとなるであろうと思うのですが実際の換気時の波形と実測値がコチラ


吸気時に圧が3cmH2O程上昇しています。そして太い赤○で囲った圧波形を観察すると吸気圧設定が0なのにしっかりと圧波形が上昇しているのが分かります。

ようするに吸気圧0設定にしても人工呼吸器が勝手に2~3cmH2O押していることになるんです。

21歳新卒当時にこれを発見した時は、呼吸器壊れたかな?と思い、同じ事を他の機械でやったりしましたが同様に圧は上昇。メーカーに問い合わせてみると担当者も分からずマーケティングへ相談。すると衝撃的返答が返ってきました。

実はこれ意図的にやっているそう。

吸気圧0にしても基本的に挿管チューブや気管切開チューブを介した人工呼吸になるためチューブの抵抗を少しでも打ち消すために若干の圧を加えているそうです。

このチューブ抵抗を打ち消すことをTube Compensation(チューブコンペイセイション)と言うのですが、メドトロニックのBennettでは「TC」・ドレーゲルの呼吸器では「ATC」などの機能名称で使用されています。


と、いうことは、そこまでチューブ抵抗を人工呼吸器側で考えているのに離脱段階で用いるCPAPやTピースによる自発呼吸トライアルは、患者に対して結構ストイックな事をしているのかもしれません。

このことから最低限の補助圧と考えられている2~3cmH2O以下の圧に補助圧を設定するとチューブ抵抗分の呼吸仕事量が増加する恐れがあるためPSであっても過度なウィーニングは行わない方がいいのではないかと個人的に思います。

今回はちょっとマニアックなおはなしでした。機械の特徴も知りながら患者に優しい呼吸管理を皆で行いましょう!