CO2ナルコーシス…臨床現場ではよく「ナルコった」「ナルコる」なんて言いますがこのCO2ナルコーシスになる原因と対処・予防について紹介します。


そもそもCO2ナルコーシスって何?

その前に呼吸ドライブのお話をします。

人間の呼吸ドライブ(呼吸をしなければ!と脳が感じること)のきっかけとなるものは体内における酸素欠乏と二酸化炭素上昇の2つがあります。この2種類の仕組みを持っていますが、この2つのドライブのうち酸素欠乏よりも二酸化炭素蓄積の方が優位だと言われています。

下の図において体内の二酸化炭素濃度が赤い点線部分に来たら呼吸が行われる閾値と例えます。

呼吸中枢におけるドライブの働き


健常人は酸素欠乏よりも二酸化炭素上昇の方がドライブ的に優位なので下の図のように左側の状態から右側のように二酸化炭素上昇が閾値に達したら呼吸ドライブが働き呼吸を行います。



では、健常人でない場合…慢性呼吸不全の状態であったらどうでしょう?

慢性呼吸不全はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)をはじめとする疾患で肺胞低換気の2型呼吸不全の状態です。2型呼吸不全とは体内の酸素分圧の低下と二酸化炭素分圧の上昇がみられる状態でした。ようするにベースとして2型呼吸不全の状態に身体が慢性的にさらされているわけなので二酸化炭素上昇による呼吸ドライブがだんだんと鈍くなります。このためこのような患者さんは健常人とは反対に酸素欠乏による呼吸ドライブが優位となります。





酸素欠乏による呼吸ドライブになると下の左側の図のように黄色の二酸化炭素上昇状態が続いても呼吸はせず右のように酸素欠乏で呼吸ドライブがかかります。


CO2ナルコーシスの呼吸ドライブ



問題はここから…こんな患者さんだったらどうでしょう?


2型呼吸不全は当然のように体内の酸素分圧が低いわけです。在宅酸素療法を行う患者も少なくありません。そんな患者さん達にSpo2が上がらないからと言って酸素流量をむやみやたらにあげたりすると酸素欠乏で呼吸ドライブがかかる状態だったのに酸素流量を上げて酸素が満ちた状態となってしまい下のように呼吸ドライブが働かなくなる危険があります。





このように二酸化炭素上昇による呼吸ドライブでなく酸素欠乏による呼吸ドライブが優位になった患者に対して高濃度(患者に必要以上の)酸素を投与することにより起こる呼吸抑制や意識障害(昏睡)のことをCO2ナルコーシスというわけです。


対応や予防は?

先ほどから出てきていますがCO2ナルコーシスの患者は2型呼吸不全です。感染を契機に呼吸不全が悪化することがほとんどでこの呼吸不全によってさらなる換気低下と酸素化悪化に陥ってしまいます。


酸素化が悪化している場合、酸素濃度を調節してさらなる高濃度酸素を投与するべきてすがネーザルカニューラや酸素マスクの場合、患者の一回換気量により酸素濃度が変化するので注意が必要です。


どういうことかというと換気量が低下している状況では仮に同じ3L/分の酸素であっても下のように換気量が変われば空気の割合の関係で酸素濃度が高濃度になってしまいます。



①換気量500mlで3L/minの酸素を投与
②換気量300mlで3L/minの酸素を投与



※①の方が②に比べ空気の割合が多いので酸素濃度は薄くなる=呼吸不全患者でも肺胞低換気が進んだら同じことが言える



このようなことがネーザルカニューラや酸素マスクという低流量酸素デバイスでは起こってしまうので酸素濃度を管理できるベンチュリーマスクやネーザルハイフローによる酸素投与が必要です。


また、換気量低下に対してはNPPVによる機械的換気補助による換気増加も有効です。


NPPVよりも挿管を行い完全な人工呼吸器管理とする方が換気量獲得は確実ですし感染起因菌への治療もやりやすいと思います。


しかし、慢性呼吸不全患者に気管内挿管をおこなうと抜管に難渋する事が多々あるのでできることならば酸素濃度を規定したNPPV管理で対応することが望ましいと個人的に思います。


これらのことから人工呼吸器への移行は離脱困難になる可能性があるので感染予防や低流量酸素デバイスでなく高流量酸素デバイスを用いた対応がCO2ナルコーシス予防の一歩となるのではないでしょうか。


皆様、患者の基礎疾患を考えたケアを行いましょう!