先日行った呼吸セミナーで「加温加湿器を使っている人工呼吸器回路の呼気側にフィルターをつけているのですが、水がたまって患者さんのSPO2が下がった事例がありました。加湿器の温度センサーの向きを変えたら大丈夫になったんですけど、このアセスメントでいいてすか?」とナースが講師に聞いていました。


実はこの質問していたの同じ施設のナースで…


質問されていた講師は私が以前勤めていた病院の系列病院にいる顔見知り…

会場で口をはさむと質問者や解答者である講師にも失礼なことになるのでとりあえず口をミッフィーにしておりました×


まあ、質問者も正しい情報を出していたわけでもなかったので講師も返事しがたく…不完全燃焼的でその時は終わってました。


てなわけで今回はこの事例を考えていきます。


あ、うちのナースには後日しっかり説明しに行きます!というか、病棟師長に勉強会させてくださいとお願いにいきました。


ああいう場で他の施設にいる臨床工学技士に質問されたら私個人…といわずうちの病院の臨床工学技士の存在意義がなくなっちゃうんで(~O~;)

おし、いってみましょう!




事例詳細

【患者情報】
神経内科に入院する50代の気管切開を行い人工呼吸器を装着している患者。自発呼吸はあるが、低換気のため離脱困難。やんわりサポートする目的で呼吸管理継続。設定としてはPS(プレッシャーサポート4cmH2O)でFio2も0.3以下。


【状況】
18時頃にセントラルモニタにて患者SpO2低下を発見しナースがベッドサイド訪室。人工呼吸器がアラームを発しておりうまく換気ができていないようだった。

すぐにドクターを呼びバッグバルブマスクで換気を開始。SpO2上昇するも呼吸器を再装着すると再度換気困難。

呼吸器の故障を疑いME当直PHSへ電話する。


上記のような状況だったわけですが、なんでこんなに情報を持っているかと言いますと…ちょうど日勤が終わりDMATの会議まで暇してたので当直の代わりに私が病棟へ見に行ったんです…行ってみるとそこには医者が6人!


医者がこんなに1つの病室に集まれるとはある意味感心ものです。


まあ、患者状態としてはSpO2もそこまでさがってなかったらしく最初に下がった時からバッグバルブマスクを使って換気していたので大丈夫。


大丈夫じゃなかったらこの話を出すのは御法度な事例ですからね。


それはさておき…


原因と対応内容を細かく見ていきます。


患者の身に何が起きた?

これ…患者の状態詮索としてはとりあえずフィジカルをとることですよね!SpO2が急に低下して疑うとすると…喀痰による気道閉塞からくる低換気、気胸、人工呼吸器外れ、パルスオキシメーター外れ…窒息・・・あたりです。


喀痰による低換気や気胸の判別はフィジカルとれば分かるので結果をもとにアセスメントすればいいのですが、機器の不具合についてはどうでしょう?パルスオキシメーターであれば装着確認、呼吸器であればテスト肺へ接続し機器が正常に動いているかをみていきます。


この事例では、私の放室時人工呼吸器はテスト肺に接続されておりアラームがなっていて内容は「患者チューブをチェックしてください」「低換気アラーム」がなっていました。
フィジカルに関しては、喀痰吸引をやった後のようでしたが、人工呼吸器を装着すると換気ができずSpO2は下がるしバッグバルブマスクを使っているとのこと。


人工呼吸器が気道内圧上限アラームを出していたとすると人工呼吸器側からうまく送気されてないだろうからそもそも呼吸音なんて聴診器あてても聞こえないと思うんですよね~。


てなわけで私は自分の仕事を…と思うのですが…人工呼吸器が繋がれたテスト肺をみるとやたらと膨らんでる…


患者ベットサイドではなく再現してみるとこんな感じ…



グラフィックでは呼気フローが出ていない…





あ~これ~呼気出せてないじゃん…


こうなると人工呼吸器の呼気排出がうまくできていないので回路系で閉塞しているか人工呼吸器の呼気弁が開かないかのどちらかです。


とりあえず一番に疑ったのが呼吸器回路の呼気側と人工呼吸器の間に装着している呼気バクテリアフィルターを外し回路を再装着。


あらら~呼吸器はアラームを鳴らすのをやめてお利口さんになりました。


どうやら呼気側につけていたバクテリアフィルターに原因があったようですがどういうことなのか?


呼気フィルターが水分により閉塞!

以前、人工呼吸器のフィルターについて人工鼻について紹介していたのですが、人工呼吸器に装着しているフィルターは基本的に水をはじく(疎水)特徴を持っています。

そして今回はそのフィルターに水分がついて閉塞していたわけですが、いったいなんでそんなことがおきるのでしょうか?ここからはちょっとマニアックなお話・・・というか仮説です。

あくまで個人的な考えですが・・・

人工呼吸器の加温加湿回路は多くの施設がフィッシャー&パイケルの回路を使用していると思います。当院でもこの回路を使用しているのですが、何故かICUやERではEVAQUAという水蒸気拡散膜(呼気回路に水蒸気がでていく構造の膜を使っているのが特徴)仕様の回路を使っているものの一般病棟では、水蒸気拡散膜ではないウォータートラップ付きの回路を使っています。

EVAQUA回路(フィッシャー&パイケルホームページより引用)


と、いうことは、今回の事例は一般病棟での出来事だったので呼気の吐出ガスは水分を含んでいたという事になります。それでも疎水膜である呼気フィルターでは水分が結露しても結露した水はウォータートラップに溜まって問題ないような気もするのですが、ここからは個人的考えです。


ECMO(体外膜型人工肺)管理を行った事がある方は想像しやすいかもしれませんが、ECMOにおいて人工肺の酸素化能を長持ちさせるめに「O2フラッシュ」という手技を行います。

これは、一時的に高流量の酸素を人工肺へ流すことで人工肺の周りにあった水分を飛ばし(圧力をかけて除去する)酸素化能低下を予防する効果があります。

これと同じような事が今回の呼気フィルターでも起こったのではないかと思います。

図で表すとこんな感じです。


水分は上の図のように呼気フィルターに付着して呼気抵抗が上がりますが、下の図のように高流量のガスフローを送ることで水が少なくなります。


そして今回の患者は低換気でなおかつサポート圧も低かったです。このことから、水蒸気拡散膜ではない呼気回路の場合、ある程度の呼気フローがないとフィルター部分に水分が溜まり閉塞のような現象を起こすと考えられます。

何故、この考えになったかというと、この事例の際に膨らんだテスト肺を自分の力で無理やり収縮させたところ呼気フィルターから水が「ぶじゅぶじゅ!」と音をたてて浸み出てきたからです。

まれな現象ではあるかもしれません。当院で起こった事例ではすぐにバイタルの異変に気付き適切な対応をとることができたために大事に至りませんでしたが、「このようなことが起こる可能性がある」と頭の片隅に入れて頂ければと思います。