しばらく更新していなかった当Blogですが、今年度初の投稿は、Twitterで困っている事を募集し書くことにしました。そのような経緯で今回は「ARDSで積極的に腹臥位をするべきか?」という事について確かな答えはないと思うので個人的な意見を書いていこうと思います。今回は、症例検討的に進めていきます!

患者状態をアセスメントする

さて、とある勤務でDrから「今からARDS患者が急患でくるから!」とあなたは言われました。さて、あなたが準備するのは次のうちどれでしょう?


①侵襲的陽圧換気が出来る人工呼吸器
②非侵襲的陽圧換気が出来る人工呼吸器
③ネーザルハイフロー
④V-V ECMO(静脈-静脈バイパス型体外式膜型人工肺)
⑤来るべき時に備えて休憩しに行く




頭に真っ先ででくるのが①の侵襲的陽圧換気を行う人工呼吸器の準備です。

人工呼吸器を使える状態で患者受け入れ準備は万全。いつでもどんな人でもどんとこい!と構えているところに患者入室。


搬送時のモニターを見てみるとSpO2 78%。患者はパニック状態のためセルシン(鎮静剤)を打ってリザーバーマスクのまま挿管の準備。

いざ挿管というところでエスラックス(筋弛緩剤)も打ちすんなり挿管完了。

人工呼吸器を接続した状態で気管内チューブの位置確認も含めレントゲンを撮影するためにラジエーションハウスへ連絡www


診療放射線技師さんがポータブルで撮影してくれた胸部写真がコチラ



両側白いですね~。
挿管チューブの位置は、ファーストカリーナ(主気管支)から見て遠くもなく近くもなくOK。


そしてこの患者さん、現在人工呼吸器の設定はエスラックスを使ったのでとりあえずPCVでの強制換気状態でFiO2 1.0、PEEP 15cmH2O、吸気圧 15cmH2Oで開始してあります。

モニターのSpO2は 86%。


血液ガス分析を行うと結果が下のようにでました。

PH 7.38
PO2 51mmHg
PCO2 32mmHg
HCO3 21mEq/L


ARDSのグレードを評価するためにはPO2をFiO2で割った値であるP/Fを用いるのでP/Fを計算してみると・・・・・

PO2/FiO2=51/1.0=51

P/F<100でありPEEPを5cmH2O以上使っている今回の患者さんは重症ARDSに分類されなかなか酸素化が思うようにいきません。


このまま低酸素状態を継続するとリスクが増すばかりなのでなんとか酸素化をしてあげなければいけません。さて、みなさんならどうしますか?




①腹臥位にしてみる
②側臥位にしてみる
③人工呼吸器をAPRVモードにしてみる
④V-V ECMO(静脈-静脈バイパス型体外式膜型人工肺)にしてみる


答えは・・・・



ちょっと画像所見を見てから!


ですwww


さて、今回の発端に繋がるのですが、腹臥位や側臥位をする理由とは何かをおさらいしていきます。



腹臥位って何故するの?

そもそも論でCTなんて見たことがないって人もいると思うので軽くCTの読影基礎についても新年度だし触れていきます。

CTを見る上でまずは左右の判別ですが、左右の位置関係はレントゲン写真と同じように逆になります。

先ほどの胸部レントゲン写真でいうと、私たちが写真を向かって見て左が患者の右になるわけなので、右の内頚静脈からCV(中心静脈カテーテル)が入っているということになります。


ではCT画像を見ていきます。CT画像とは体を横に輪切りにした時の画像なのでフィジカルの結果や胸部レントゲン写真後であればある程度の予想がつくというのも特徴です。

例えば下のような胸部レントゲン写真があった場合は左の肺が全体的に真っ白なのでCT画像でも左の肺野部分が白くなって肺の含気がない画像になるはずです。



ただ、その含気面積が横に輪切りにした時に胸側なのか背側なのかはたまた全体的なのかは分からず、その病変部位を観察するためにCTを撮るといった感覚になります。CTをとってみたらこの場合は全体的に無気肺があったのでCT画像は下のようになります。





さて、話は戻りまして酸素化障害となった患者の多くは全身の炎症も高くなっていて血管透過性が高く浮腫などがあったり下側肺障害などもみられます。そのような患者さんでよく見る胸部レントゲン写真とCT画像がこのような形です。




CT画像を見ると上部は黒く下部は白いです。ようするに両側背中側に無気肺があることが問題になっています。では、なぜこのような画像の患者さんでは酸素化障害を呈するかというと含気部分(空気を含み黒く映っている部分)と血流がミスマッチしているためです。


血液は重力の関係上、背中側に豊富ですが背中側の肺胞は御覧のとおり無気肺状態。そもそも、ガス交換は血液が流れる毛細血管と肺胞が接しそれぞれのガス分圧差を用いた拡散で行います。しかし、ガス交換がないところに血液が豊富にあっても意味がないしガス交換が多い部分で血流がないのもまた意味がありません。この問題を解決するであろう手段がようやく出てきた今回のキーワードである腹臥位なのです。

腹臥位は、通常仰向けで寝ている患者をうつ伏せにすることをいいます。ようするに換気と血流の関係が先ほどの画像を180℃回転させた下のような状況にもっていくわけです。



そうしたら・・・SpO2 96%


意外と腹臥位は効果はみられたりするものです。極端に言えば冒頭で出した片側性の向き肺の場合・・・


左肺が無気肺のため酸素化を目指すのであれば健側(健康なほう)である右の肺に血流を向かわせればいいので体位としては右肺を下にする右側臥位をとるといいです。


このように酸素化が悪く困ったときにはある程度体位変換で対処が出来る場合もあります。しかし、体位交換は常にリスクがある行為なので大きい体格の患者やマンパワーが確保できない場合などは無理にする事はないのかなと思っています。


また、患者の予後が非常に悪い場合や原疾患の影響が強い場合も同じように無理な体位交換は行わないほうがいいと思います。


このような場合、経験則ですが、早めにV-V ECMOなどに移行するほうが懸命と思います。


まとめると、こんなにだらだら書きましたが、直接患者を診て、その状況を知った上で判断するのが1番だと思います。



順番としては・・・呼吸器条件をめいいっぱい上げてみて駄目なら画像やフィジカルの情報を元に背側での無気肺があるのであれば腹臥位を1度はトライするべきかな。


久しぶりのBlog。。。。


でした!