ARDSをはじめとする肺水腫や肺虚脱患者に対して行う肺リクルートメント(再開通)について紹介していきます。


リクルートメントとは?

虚脱肺をターゲットに人工呼吸器を用いて高い圧力をかけて肺の再開通を試みる手技を総称してリクルートメントもしくはリクルートメントマニューバーと呼びます。



リクルートメントの方法

リクルートメントには現在下のようなやり方が存在しますが、決まった方法はなく患者の状態や手技者の意向により各々の裁量で行われています。




今回はそのなかでも急性期領域で多用されるAPRVの基本的な考え方と設定における注意点について紹介します。


APRVとは?

Airway Pressure Release Ventilation
気道圧解放換気


のことをさします。今回の記事においてはグラフィック波形の基礎知識を持っている前提で話を進めていきます。別記事にグラフィック波形の基礎知識についての記事を書いているのでよかったらご覧ください。



APRVは二相性のCPAPですので高圧相(PEEP Hi)・低圧相(PEEP Low)のどの相においても自発呼吸が可能というのが特徴です。したがって自発呼吸を温存した呼吸管理を行えると世間的に言われています。


先ずは、一般的な自発呼吸の条件で換気した場合とAPRVで換気した場合の圧波形・流量波形を示します。






一般的な呼吸管理ではPEEPをベースにそこから吸気圧を付加し「換気」を行います。そして生理的呼吸と同じく吸気と呼気の比率は呼気の方が長く設定されているはずです。一方、APRVでは高圧相が長く低圧相が短い(吸気時間が長く呼気時間が短い)のでいわゆる吸気と呼気の比率が逆転したIRV(逆比換気)の状態となります。






あえて高圧相を長くしているのですが、これは肺を広げる時間を長くして平均気道内圧を上昇させる目的で行っています。ここで懸念されるのが「吸気時間を延長したら吐きたくてもはけないのではないか?」という事です。



冒頭に紹介した通りAPRVは二相性のCPAPでした。CPAPは自発呼吸が可能な呼吸モードなので機能的残気量の増加した高圧相でも自発呼吸が可能というわけです。



また、高圧相では自発呼吸があったとしても機能的残気量が増加しているためいくら努力呼吸を行ったとしても一回換気量は低下してしまいます。これでは酸素化をターゲットに平均気道内圧を上昇させても低換気による高二酸化炭素血症を呈する呼吸性アシドーシスになってしまいます。


そこで換気を是正する目的で高圧相から一気に低圧相へとRelease(解放)することにより換気を行います。これこそエアウェイプレッシャーをリリースする換気という由縁になります。





このようにAPRVの設定としては…

・酸素化に対する設定項目
平均気道内圧
・換気に対する設定項目
高圧相から低圧相へのRelease×Release回数


といったように設定を行います。


具体的設定は?



ポピュラーな設定を上に示しました。この設定では高圧相を30cmH2Oで3.5秒。低圧相を0cmH2Oで0.5秒としています。ようするに平均気道内圧は30cmH2Oの高圧相を3.5秒間続けることにより稼ぎ、換気は高圧相の30cmH2Oから0.5秒という短い呼気時間ではあるものの一気に0cmH2Oの低圧相へと圧解放を行うことにより獲得した一回換気量で呼吸回数15回分行い分時間気量を成立させるわけです。


したがって酸素化を期待するならば吸気時間、高圧相若しくは低圧相の圧力を上昇させる。換気を行いたければ高圧相と低圧相の差を大きくするか呼気時間を延長する、換気回数を増やすという対処を行います。


ここで設定を行う上で注意すべきことがあります。APRVとはいうものの現在日本国内で本当の意味でのAPRVが出来るのはトレーゲルのエビタシリーズかハミルトンシリーズになります。


サーボやベネットに搭載されているBiventやBILEVELは「もどき」APRVとなります。このためサーボやベネットで行うAPRV的換気には注意が必要となります。


ここからはその注意事項について紹介します。


もどきAPRVでの注意は呼気時間!





サーボやベネットでは呼吸ピークフローを100%とした際に、設定していた呼気時間があったとしても呼吸フローが60%の点に到達するまでは次の吸気に移行せず呼気時間を延長させるという仕組みをとっています。なんだかさっぱりだと思うので下に見やすく図を示します。





左の呼気フロー波形をみてみると設定していた呼気時間時に呼気フローが80%地点にしか到達していません。このような場合は右のフロー波形のように呼気時間を60%地点に到達するまでは延長するようになっています。

このため設定呼気時間と実際の呼気時間に差が生じてしまいます。このような場合の原因としては呼気フローがすぐに吐けない状態が考えられます。この60%まで呼気時間を延長する仕組みは、吐き残しとなり低換気とならないようにあえて設けられているものなので呼気時間設定の目安としてはどの人工呼吸器においても呼気フローがある程度戻ってきている事を確認して設定を行っていただければと思います。



実際に私が行ったAPRV以外のリクルートメント


少し脱線しますが、実際私が行ったリクルートメント症例を紹介します。

こちらの症例は酸素濃度をあげても酸素化が出来ず多呼吸で栄養状態も悪い方でした。



右の赤い線がスライスした場所でその横にCTを並べています。これを見て分かることは肺炎があり分泌物も増加…左肺は潰れているということです。


ECMOという言葉もよぎるほど悪化していきドクターよりAPRVを依頼されましたが、多呼吸のためAPRVでは自発呼吸と同期せず胸腔内圧の急激な上昇により血圧も低下。すぐにAPRVを中止しPSVにモードを切り替えました。ここで、聴診をしたところ片側性の無気肺だったので右側臥位へ体位変換後、APRVではなくamato法に類似した方法でPSVのままリクルートメントを試みました。PSVでのリクルートメントを波形的に示したものが下のような波形になります。





これはPEEPを20cmH2O程、PS圧を20cmH2O程に設定し患者の自発呼吸に同期させ高いドライビングプレッシャー(圧力変化)を用いて無気肺を開くというものです。ほんの4呼吸程で聴診音もよくなったのでPEEPとPS圧を程ほどな設定へ戻し難を逃れたというものでした。


落ち着いた頃に撮影したリクルートメント前後のCTがコチラです。




このようにAPRVはどんな患者にでもできるわけではなく時と場合によって使いわけが必要であると思います。特に栄養状態が悪く血管内脱水の患者にAPRVを行ったりしたときにはほぼほぼ循環で痛い目に合うので注意が必要です。


また、片側性の無気肺である場合は体位による換気血流比の改善やドライビングプレッシャーによるリクルートメントも有効な場合があると考えられます。


ともあれ、経験論しかありませんが、APRVは魅力的モードのように見える反面、適応や機器の特徴などを踏まえそれらを十分理解した上で使用していてもられたらなと思います。